『いのちのことば』誌特集「50人が選ぶこの一冊」

本であれ音楽アルバムであれ、自分の好きなもの、思い入れのあるものを人に紹介するのは楽しいものです。他の人たちからおすすめを聞くのも同様です。それは単なる情報共有ではなく、その人のおすすめを通して当人の趣味や考え方、人となりを垣間見ることができるからです。その意味では、人に何かを推薦するのは緊張する体験でもあります。自分のおすすめを通して、自分自身の教養や人間性が見透かされてしまうような気になるからです。それでも、自分が大きな恵みを受けたものを他者と共有する楽しみは、他に代えがたいものがあります。ビブリオバトルが流行しているのも、そんな理由からかもしれません。

さて、月刊『いのちのことば』誌が今年の7月号で500号目を迎えます(創刊は1979年1月だそうです)。その節目を記念する特集として、(福音派?)キリスト教界の50人が推薦書を紹介する「50人が選ぶこの一冊」という企画がなされました。私も依頼を受けておすすめの本を挙げさせていただきました。

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ピーター・エンズ著『聖書は実際どう働くか』(2)

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随分間が空いてしまいましたが、ピーター・エンズの最新刊、『聖書は実際どう働くか』についての紹介記事の続きをアップします。前回、聖書は解答を与えるのではなく知恵を与えるというエンズの主張を見ました。今回は、聖書の中に見られる知恵の表れの一つについて見ていきます。それは、より新しい時代のテクストが古い伝統を新しい状況の下で再解釈する現象です。

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現代科学と開かれた未来(ジョン・ポーキングホーン)

今年になって名古屋の大学の非常勤講師としてキリスト教について教え始めました。その中で「キリスト教と科学」という主題について話をする機会があり、準備のために読んでいた本の中で、イギリスの物理学者・神学者ジョン・ポーキングホーンが神と未来について興味深いことを言っている箇所に出逢いました。 続きを読む

『焚き火を囲んで聴く 神の物語・対話篇』

このたびヨベルさんから出版された『焚き火を囲んで聴く 神の物語・対話篇』が手元に届きました。

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この本はもともと『舟の右側』誌に大頭眞一先生が連載された12回の記事に、12人の「焚き火仲間」が応答すると言うかたちで編まれたものです(ネット上に本書のリンク集もあります)。届いたばかりの本をぱらぱらと見ていますが、キリストのからだの多様性と一致がユーモアを交えながら見事に体現されており、まさに「焚き火を囲んだ対話」というイメージがぴったりだと思いました。他に類を見ない本だと思います。

さて、本書では私も焚き火仲間に加えていただき、大頭先生(本書では「先輩」と呼ぶことになっているようですが・・・)の第5回連載「焚き火のまわりで雪合戦」への応答として、「愛なる神が与えてくださる冒険――オープン神論」という一章を書かせていただきました。 続きを読む

十字架に啓示された神の性質(グレッグ・ボイド)

グレッグ・ボイド師による最近のブログ記事の中で、とても参考になるものがありましたので、ReKnewの許可を得て翻訳・転載します(元記事はこちら)。これは少し前に連載したボイド師のインタビュー(特に第4回第5回)に対する良い補足となると思います。哲学や神学のやや専門的な内容に関心のない方は、最後にいくつか挙げられている質問の部分だけでもお読みになることをお薦めします。 続きを読む

グレッグ・ボイド・インタビュー(5)

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グレッグ・ボイド博士のインタビューを連載していますが、今回は神と時間についてです。

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――オープン神論の基本的特徴の一つに、神は時間的な存在であるというものがあります。神が時間の中に存在するというのは、古典的神論とはかなりちがう考えです。このことについて説明していただけますか? 続きを読む

グレッグ・ボイド・インタビュー(4)

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グレッグ・ボイド博士のインタビューの4回目です。今回は、神学における「ミステリー(奥義・神秘)」の役割についてです。

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――オープン神論に対する批判の中で、もう一つよくなされるのは、神の主権と人間の自由意志の関係について、オープン神論はあまりにも合理的に説明しようとしすぎる、ヒューマニスティックな神学だ、というものです。最近読んだ論文でも、オープン神論を批判する中で、「私たちは神のミステリーを認めなければならない」と主張されていました。つまり、神の主権と自由意志がどうやって両立するのかは、人間の理性を越えたミステリーなので、それを合理的に説明しようとするのは誤りだ、ということです。個人的にはその論文自体はあまり説得力を持たなかったのですが、一方で人間の理解を超えた神のミステリーというものも確かにあると思います。私たちは神学におけるミステリーをどう位置づけたら良いのでしょうか? 続きを読む

グレッグ・ボイド・インタビュー(1)

このブログを以前から読んでくださっている方々には、アメリカの神学者グレゴリー(グレッグ)・ボイド博士はおなじみだと思います。同師の著書疑うことの益 Benefit of the Doubtについての紹介シリーズ(こちらの最終回にすべての記事へのリンクがあります)を掲載したこともありますし、オープン神論についてのシリーズも、主にボイド師の見解を紹介したものです(こちらを参照)。

私はアメリカ留学時代にボイド師の牧会するウッドランドヒルズ・チャーチ(ミネソタ州セント・ポール)に通っており、先生とは何度もお会いしたことがあります。昨年末に渡米した際に同教会を訪れ、ボイド師にインタビューすることができました。オープン神論や同師の最新刊十字架につけられた戦いの神 The Crucifixion of the Warrior Godについて興味深いお話を伺うことができました。ご本人の許可を得て、これから何回かに分けてその内容をお分かちしていきたいと思います。 続きを読む