神がデスヴォイスで歌うとき(4)

サウロはエルサレムに着いて、弟子たちの仲間に加わろうと努めたが、みんなの者は彼を弟子だとは信じないで、恐れていた。
(使徒行伝9章26節)

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クリスチャンメタルは、その始まりから論議を呼ぶ存在でした。そしてそれは、Marcus Mobergが指摘するように、キリスト教会内での論争と、一般のメタルコミュニティの中での論争という、「二重の論争」の様相を呈していたのです。

一般のメタルコミュニティにおいては、クリスチャンメタルは布教目的のプロジェクトであって、音楽的には既存のメタルバンドの貧弱なコピーに過ぎないという批判が根強くあります。けれども、30年以上の歴史を経てクリスチャンメタルは多様化と発展を遂げてきており、その批判が正当なものであるかどうかは個別に判断していくべきものでしょう。

より興味深いのは、キリスト教会内での批判です。Mobergによると、このことを理解するためには、1980年代半ばのアメリカ社会をとりまく歴史的文脈を考える必要があります。 続きを読む

神がデスヴォイスで歌うとき(2)

人は外の顔かたちを見、主は心を見る。
(1サムエル記16章17節)

その1

クリスチャンメタルについて書いていますが、このシリーズは単なる音楽の趣味について語っているのではありません。また特定の音楽的嗜好を読者に押しつけようとするものでもありません。むしろ、ふだんヘヴィーメタルを聴かない人々、あるいはメタルというジャンルについて特定の固定観念を持っておられる方々にこそ読んでいただきたいと思っています。それは以下のような理由によります。 続きを読む

ルカ文書の執筆年代

昨年秋から、クリスマス前後の休みを挟んで8週間にわたって開講されたeラーニング「ルカが語る福音の物語の講座が先日無事終了しました。40人ほどの方々が受講してくださいました。オンラインのディスカッションを通して、私自身ルカ文書についての理解を整理できたり、新たな気づきを与えられたりして、とても有意義な時を過ごすことができました。あらためてGrace-onlineと関係者の皆様にはお礼を申し上げます。

講座の中で配布した資料の中から、ルカ文書の執筆年代について書いたものを、多少修正の上ここに掲載します。

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聖書の各書巻の執筆年代については、正確な数字をピンポイントで確定できず、人によって意見に幅のあることが多いです。注解書などに書かれている年代はあくまでも学者による推定(educated guess)に過ぎないことに留意し、断定的な態度を取らないことが重要です。 続きを読む

「宗教改革500周年」に思う

本日、2017年10月31日は500年目の宗教改革記念日です。1517年のこの日、マルティン・ルターがヴィッテンベルク城教会の扉に「95箇条の提題」を掲示したのが宗教改革の始まりと言われています。

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もちろん、実際の宗教改革はルター個人が始めたものと言うよりは、もっと大きな歴史的流れの中で起きていった運動ですので、正確にこの日に宗教改革が始まったとピンポイントで特定できるようなものではないと思いますが、一つの象徴的なできごとであったことには間違いないでしょう。

ルター作「神はわがやぐら(Ein feste Burg ist unser Gott)」

プロテスタント教会では国内外で宗教改革500周年を記念してさまざまなイベントが行われています。私自身もプロテスタントに属する一キリスト者として、やはり感慨深いものがあります。しかし同時に、プロテスタント教会は、ただ500周年を無邪気に祝うだけではなく、これまで歩んできた道を振り返り、改めるべきところは改め、さらなる改革を進めていかなければいけないのではないかとも思っています。 続きを読む

ピーター・エンズ著『確実性の罪』 を読む(4)

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今回は、『確実性の罪(The Sin of Certainty)』の第2章”How We Got Into This Mess”(私たちがどのようにしてこの混乱状態に陥ったか)を取り上げます。

前回見たように、エンズは現代キリスト教の抱える大きな問題点の一つは、「神への正しい信仰」と「神についての正しい思想」を同一視する考え方にあると主張します。繰り返しますが、エンズは神についての正しい理解を知的に追求していく営みを否定しているわけではありません。問題はそれをキリスト教信仰の中心に据えようとする態度です。

けれども、どうしてこのような信仰的態度が生じてきたのでしょうか?エンズはアメリカの歴史において、聖書はキリスト教信仰の知的基盤(たとえば正確な科学的・歴史的知識)を提供するということに関しては長い間共通の理解がありましたが、19世紀になってそのようなコンセンサスを揺るがすようなできごとが起こってきたといいます。 続きを読む

ルカ文書への招待(8)

      

8回にわたってEquipper Conference 2016に向けたルカ文書の入門コラムとその補足をお送りしてきましたが、今回がいよいよ最終回になりました。カンファレンスに参加しない人々にとっても、ルカ文書に興味を持っていただけるきっかけとなれば幸いです。

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ルカが語る福音の物語⑧ 「すべての主であるキリスト」

8回にわたって、ルカ文書(ルカの福音書と使徒の働き)について概観してきました。ルカはイエスと教会の物語を、地上における神の救いのご計画の現れとして描いています。そして、そのストーリーは、地中海世界におけるローマの支配という歴史的現実を背景として展開していきます。

「福音」とは、イエス・キリストを通して神の国、すなわち神の王としての支配が地上に訪れつつあることについての「よい知らせ」です。そのメッセージは、個人の心の問題だけに関するものではなく、地上の現実のあらゆる側面に関わってきます。政治もその例外ではありません。現代のような「政教分離」という考え方は聖書時代の人々にはなかったのです。 続きを読む