このブログでの紹介がすっかり遅くなってしまいましたが、『百万人の福音』の今年(2019年)の1月号から「ルカが語る福音の物語(ストーリー)」と題して、ルカ文書についての連載をしています。 続きを読む
書籍紹介
二人の女性の物語
ピーター・エンズ著『聖書は実際どう働くか』(2)
(その1)
随分間が空いてしまいましたが、ピーター・エンズの最新刊、『聖書は実際どう働くか』についての紹介記事の続きをアップします。前回、聖書は解答を与えるのではなく知恵を与えるというエンズの主張を見ました。今回は、聖書の中に見られる知恵の表れの一つについて見ていきます。それは、より新しい時代のテクストが古い伝統を新しい状況の下で再解釈する現象です。
『聖書信仰とその諸問題』への応答8(藤本満師)
藤本満先生によるゲスト投稿シリーズの8回目をお送りします。
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8 聖書(新約)が聖書(旧約)を解釈するとき
筆者はジェームズ・ダンに倣って(前掲論文、113)、「釈義」(エクセジーセス)と「解釈」(インタープリテーション)とを分けておきます。
釈義とは、私は聖書の文書をそのオリジナルな意味において、オリジナルな表現、オリジナルの文脈において意味を理解する試みであると考えています。それに対して、解釈とは、便宜的に言えば、そのオリジナルな意味にできるだけ付け加えることも削除することもせずに、解釈者の生きている時代の言葉、考え方、表現の仕方に言い替える試みです。
いわば、「釈義」とは近代聖書学が始まって以来考えられてきた歴史的・文法的手法をもってオリジナルな意味を探し求める努力です。そして「解釈」とは、読者がその時代に理解できる枠組み・表現・考え方を用いてテクストの意味を理解できるように、その意味を引き出し表現することです。釈義の方が技術的で精密な研究の積み重ねで、解釈は時代性・アーティスティックな要素が求められます。
まず初めに、この二つを分けて考えることは、キリスト者が旧約聖書を読むときに特に大切でしょう。私たちが旧約聖書を旧約聖書としてオリジナルな文脈とセッティングで釈義したとしても、キリスト者である限り、その解釈においては、福音というフィルターでもう一度その意味を篩わなければなりません。そうして現れるのがキリスト者としての解釈です。 続きを読む
『聖書信仰とその諸問題』への応答7(藤本満師)
藤本満先生による寄稿シリーズの第7回をお送りします。
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7 主イエスが旧約聖書を用いるとき
第7回、8回目となる二つの論考は、『聖書信仰とその諸問題』に掲載されている鞭木由行氏「キリストの権威と聖書信仰」をきっかけとして記しています。そして、筆者の応答は、1981年のAnglican Evangelical Assemblyで発表されたジェームズ・ダンによる「聖書による聖書の権威」(The Authority of Scripture According to Scripture, Churchman, 1983, 104~122, 201~225) から多くを援用しています。
この講演論文でダンは「聖書(新約)は聖書(旧約)をどのように取り扱っているか」を検証しています。そしてダンが到達する結論は、聖書を第一とする福音派がこの課題を取り扱うとき、聖書を重んじるという自己意識を具現するために、プリンストン神学に見られるような神学の演繹的結論ではなく、聖書は聖書をどのように語り、用いているのかを具体的に聖書の中で検証することが求められると言います。
この課題におけるその後の研究はさらに重厚なものになっていますが、基本的に同じ土俵で同じような相手にぶつかっている、つまり、イギリス福音主義の聖書学者が米国のシカゴ声明(背後のウォーフィールド型聖書信仰)を問題視する諸点は、変わらないのが現実です。筆者は、ジェームズ・ダンの論考に共感を覚えて、以下を記していることを先に明らかにしておきます。 続きを読む
Eshet Chayil(勇気ある女性)
5月4日にレイチェル・ヘルド・エヴァンズが37歳の若さで亡くなりました。彼女がここ2週間ほど昏睡状態に陥って危険な状態にあったことは知っていて祈っていましたが、それでも彼女のあまりに早い死に大きなショックと悲しみを覚えました。
過去記事(12)でも取り上げたように、私は長年彼女のファンでした。彼女のブログをフォローし、新しい本が出るたびに手に入れて読んできました。
レイチェルは私の個人的知り合いではありませんでした。実際に会ったことはもちろん、メール等でのやりとりをしたこともありません。けれども、作家であれミュージシャンであれ、自分が賞賛し、そのアウトプットをリアルタイムでいつも楽しみにしてきた同時代人の死に触れる時、個人的な知り合いの死とはまた違った独特の悲しみと喪失感があります。最近読んだある本で、それは、もしかしたらその人物と持つことができたかもしれない友情が失われる切なさであると書かれていて、深く納得しました。ユーモアと機知に富んだ彼女の文章にもう触れることができないと思うと、とても寂しい気持ちです。
ピーター・エンズ著『聖書は実際どう働くか』(1)
このブログでもたびたび取り上げてきた人物に、アメリカの旧約聖書学者ピーター・エンズがいます(たとえばこの過去記事を参照)。私は彼の著作からいつも大きな刺激を受けています。今年の2月に出た最新作How the Bible Actually Works(聖書は実際どう働くか)も早速読んでみましたが、期待に違わぬ充実した内容でしたので、紹介してみたいと思います。

Image from peteenns.com