先週、シンガポールで開催されたアジア神学協議会(ATA)の総会に出席してきました。今回のテーマは「未来の教会:その神学的応答 The Future Church: A Theological Response」で、次世代に対する神学教育のあり方について議論がなされ、多くのことを学ばされました。

Image by Asia Theological Association
今回フォーカスが当てられたのは、特にミレニアル世代(1980年代はじめから1990年代半ばまでに生まれた世代)です。(1990年代中盤以降に生まれたさらに若いポストミレニアル世代もいますが、今回議論の中心となったのはミレニアル世代でした。)ミレニアル世代はインターネットと共に育った世代であり、スマートフォンやソーシャルメディアが生活の一部になっています。彼らはポストモダニズムの中で産声をあげた最初の世代であり、Leonard Sweetの言うEPIC(Experiential, Participatory, Image-driven, Connected)、つまり体験と参加とイメージとつながりを重んじるポストモダン文化の中に生きています。
神学教育との関係で言えば、ミレニアル世代の特徴は次のようなものを含むそうです:
- 集中力の持続時間が短い。
- 受け身ではなく参加型の学習方法を好む。
- 学んだことが自分にとってどのような意義を持つのかに興味を持つ。
- 自分が学んだことを他者と共有することを欲する。
- 抽象的知識よりイメージやストーリーを重んじる。
- ヒエラルキーを嫌い、平等性を重んじる。
以上のような特徴を見ただけで、従来のような長時間の講義を中心とした授業のスタイルはこの世代にとって苦痛であろうことは容易に想像がつきます。私は一般の大学で教えた経験もありますが、思い当たるふしもあって、自分のスタイルについてもいろいろ反省を迫られました(私の教えている神学校では年配の神学生もかなりいますので、急にすべてを変えることは難しいですが)。
ミレニアル世代のもう一つの特徴として言われていたのは、(あくまで一般論ですが)基本的な聖書知識の乏しさ(biblical illiteracy)です。これは彼らの責任というよりも、彼らの学習スタイルに合った形で教会やクリスチャンホームにおける聖書の教育がなされてこなかったことに原因があるのかもしれません。ミレニアル世代の人々が興味を持って効果的に聖書を学べるようにするにはどうしたらよいかを考えると、次のような要素が挙げられます:
- 短い時間で一まとまりの内容。
- マルチメディアの使用。
- インターネット、スマートフォンでアクセスと共有が可能。
- 聖書のナラティヴ的側面を強調。
先日紹介した「聴くドラマ聖書」もこのような特徴のいくつかを備えていますが、他にも有益な聖書研究のリソースがあります。その一つがThe Bible Projectです。

Logo by The Bible Project
バイブルプロジェクトはYouTubeの動画をメインにした、無料で使用できる聖書研究サイトです。1本数分程度の短い動画で、アニメーションを使った分かりやすい解説が特徴です。
バイブルプロジェクトは「聖書をイエス・キリストにつながる統一したストーリーとして世界に示す」ことを目的として設立された非営利団体です。創立者のTimothy MackieとJonathan Collinsはマルトノマ聖書大学の卒業生で、Mackie博士はウィスコンシン大学マディソン校で学んだ聖書学者です。私はこれらの動画を何本も見ましたが、内容的にもしっかりしたものです。
バイブルプロジェクトは日本ではまだあまり知られていないと思いますが、海外では有名ですので、ご存じの方もおられると思います。サイトの説明によると、彼らが聖書解説の動画を投稿し始めたのは2014年で、それ以降の5年間で彼らのビデオは全世界で1億回以上も視聴されたということです。視聴者の中心的年齢層は18歳から45歳までということですので、これはほぼミレニアル世代と重なります。
具体的にいくつかの動画を紹介しましょう。(残念ながらバイブルプロジェクトのリソースは英語ですが、いくつかのYouTube動画には日本語字幕がついています。すぐ表示されない場合は、動画の右下にある歯車の形をした設定ボタンからSubtitles/CC > Japaneseを選択してください。)
最初は「聖書とはなにか?」です。
次は、「神の国の福音」についての動画です。
これらのようなテーマ別の動画もあれば、聖書各巻の概説動画もあります。たとえばダニエル書の解説は次のようになっています(こちらには現在のところ日本語字幕はありません)。
最終的な概観図はこちらからダウンロードすることもできます。
バイブルプロジェクトは今回のATA総会でも紹介されていましたが、私は以前から知っていて、動画を神学校の授業でも見せたりしてきました。ミレニアル世代に限らず、幅広い層の人々に受け入れられるリソースだと思います。バイブルプロジェクト自体には視聴者が参加できるフォーラムのような場は設けられていないようですが、人々がSNSなどで動画を共有してディスカッショングループを作ったりすることも容易にできるでしょう。
一番のネックは一部の動画にしか日本語字幕がないことですが、現在バイブルプロジェクトの動画を、アニメーションも含めて日本語化する計画が進んでいるそうですので、近い将来に日本語でこれらのリソースを利用できる日が来ることを心待ちにしています。特に英語の分かる方はぜひご自身でいろいろとご覧になることをおすすめします。