少し前にヘヴィーメタルについて連続記事を書きましたが、それがきっかけで日本のクリスチャンメタルバンド、Imari TonesのTak Nakamineさんご夫妻と知り合うことができました。たまたま家も近かったので実際にお会いする機会も与えられ、たいへん充実した楽しい時間を過ごすことができました。
その時にいろいろと音楽についても教えていただいたのですが、その中でSister Rosetta Tharpeという黒人女性ミュージシャンの存在を知り、とても興味を覚えて自分でも調べてみました。
ロックミュージックの起源については諸説ありますが、その誕生に大きな影響を与えた一人がシスター・ロゼッタです。彼女は1915年にアメリカ南部のアーカンソー州に生まれた歌手またギタリストで、エルヴィス・プレスリーやチャック・ベリーら初期のロックンローラーに絶大な影響を与え、「ロックンロールのゴッドマザー」と呼ばれました。
「シスター」という呼称からも分かるように、彼女はゴスペル・シンガーでもありました。彼女の母親は巡回伝道者で、彼女は子どもの時からアメリカ各地の教会やリバイバル集会で演奏し、歌っていました。彼女は一般の音楽界で成功した後も、生涯一貫してゴスペル音楽を歌い続けたクリスチャンミュージシャンでした。実にロックンロールの源流には神への賛美があったのです。
シスター・ロゼッタはいろいろな意味で型破りの人物でした。教会音楽と世俗音楽の垣根を取り払って教会とナイトクラブの両方で歌い、一般の音楽界にゴスペルを浸透させました。白人と黒人が厳しく隔離されていた時代に白人のグループをバックに演奏し、時代を先取りした斬新なギタープレイはエリック・クラプトンやキース・リチャーズといった後の著名ギタリストにも影響を与えました。
1930-40年代に彼女は人気の絶頂に達しましたが、50年代に入って若い世代の白人ミュージシャンによるロックンロールが流行するとその人気は陰りはじめ、1973年に亡くなると、次第に彼女の名は忘れ去られていきました。近年になって再評価が進み、なんと没後45周年の今年2018年になってようやく「ロックの殿堂」入り(アーリー・インフルエンス部門)が実現しました。
上は1964年に英国マンチェスターで行われた野外コンサートの一部です。これは1962年から始まったアメリカン・フォーク・ブルース・フェスティバルの一環でしたが、使われなくなった鉄道の駅をそのまま使い、片方のホームをステージに、線路を隔ててもう片方のホームを観客席にしたセンスがなんとも秀逸です。
ここでシスター・ロゼッタは “Didn’t It Rain” と “Trouble in Mind” を演奏しています。堂々たる体躯でギブソンSGカスタムモデルのエレキギターをかき鳴らしながら歌う彼女は圧倒的な存在感を放っていますが、何より驚くのは、彼女がいとも自然にゴスペルとブルースを続けて歌っていることです。シスター・ロゼッタの中では20世紀のアメリカで黒人女性として生きることに起因するさまざまな苦しみや嘆きと、クリスチャンとしての希望が分かちがたく結ばれていたのかも知れません。「ブルースと霊歌は同じ経験基盤から生まれ出たものであって、いずれも相手の注釈なくしては黒人的生の適切な解釈たりえない」というジェイムズ・コーンのことばを思い起こします。かつてアフリカから強制的にアメリカに連行されて奴隷にされた人々の子孫である彼女が、イギリスの若い白人たちを熱狂させたのは、一つの歴史的瞬間と言ってよいでしょう。この演奏に触れた多くの若者たちがエレキギターを手にするようになったと言います。
シスター・ロゼッタ・サープの音楽と人生について想いを馳せるとき、聖書の詩篇や黙示録に記されている「新しい歌」という聖書の表現が心に浮かんできました。彼女は教会の中だけにとどまるのではなく、この世の人々の前で神について歌い、一つの新しい時代を切り拓いた人物でした。
フィラデルフィアにある彼女の墓には、次のような言葉が記されています。
彼女の歌は人々を涙させ、
それから人々を喜び踊らせた。
彼女は教会にいのちを与え、
聖徒たちを喜びに溢れさせた。