3月29日(水)から31日(金)にかけて、米テキサス州ヒューストンで開催されたバイオロゴス・カンファレンスに参加して来ました。
バイオロゴス(BioLogos)とはアメリカ国立衛生研究所(NIH)の所長であり、ヒトゲノム計画の指導者でもあったフランシス・コリンズ博士によって2007年に設立された、科学とキリスト教信仰の融和を追求・促進することを目的とした団体です。
BioLogosは、bios(いのち)とlogos(ことば)という二つのギリシア語をもとにした造語です。同団体の説明によると、この名称は神のことば(ロゴス)であるキリスト(ヨハネ1章1節)がすべてのいのちの源であるということを表しているそうです。(ちなみに、ギリシア語には「いのち」を表すことばとしてゾーエーとビオスがあり、前者は生命の存在そのものを、後者は生命の持続や方式を表し、人間の「人生」などについて使われます。)
自然科学と、それを基盤とした技術は私たちの生活にとって大きな重要性をもっています。ところが、「現代の世界で広く行われている科学と宗教・信仰は対立するもので、一方を受け入れるなら他方を受け入れることはできない」という考えが広く行き渡っています。一方ではリチャード・ドーキンスなどの戦闘的無神論者が科学の名の下に宗教批判を展開していますが、その一方で、聖書の字義通りの解釈にそぐわない現代科学のコンセンサス(たとえば生物学的進化)を全否定するという保守的クリスチャンたちがいます。彼らの思想的立場は正反対であるにもかかわらず、皮肉なことにどちらも「科学と宗教は両立不可能」という点では一致しているのです。
けれども、科学と信仰は両立可能であり、積極的にその可能性を追求していこうとする人々もいます。バイオロゴスはそのような流れの中にある団体です。
今回の全体テーマは「キリストと創造」でした。11カ国から350人ほどの人々が参加し、さらに世界中からオンラインで参加した人々もおられたようです。会場は第一線で活躍するプロの科学者や牧師・神学者・聖書学者から、科学と信仰の関係に興味を持つ一般のクリスチャンまで、多様な背景を持つ人々で賑わっていました。
今回の講師陣はどれも素晴らしかったです。最初の夜はN・T・ライトが聖書学の立場から、創造と新創造におけるキリストの役割について講演しました。神が万物をキリストを通して創造されたというコロサイ1章15-17節等の聖書箇所から、創造と新創造はキリストを中心に考えなければならないことが語られました。よくあるアプローチは、「神が世界を創造した」というところからスタートして、そこにイエスをどう当てはめるかを考えるけれども、本当はイエスからスタートしなければならないということです。ライトはイエスが新創造=神の国についてたとえ話などで語る時、それは小さなスタートから時間をかけて成長していくようなものとして語られたことを指摘しました。またその中で、「力」の概念も再定義しなければならない、自己犠牲的な愛による影響力こそが神の力であると語りました。
この講演を聴いて、神がことをなさる時には、有無を言わせぬ力ですべてを一度に変えるのではなく、はじめは目に見えないほど小さな存在からはじめ、ゆっくりと時間をかけて世界を変えていくことを好まれるような気がしました。イスラエル民族がアブラハムという一人の人から始まったことしかり、キリスト教会が一握りの無名のユダヤ人たちから始まったことしかりです。
ライトに続いてフランシス・コリンズが科学の立場から講演しました。自らの体験なども交えながら、科学と信仰は両立可能であること、クリスチャン科学者が直面している課題、科学の発展に伴って生じる倫理的問題などについて論じました。最後には、ライトとコリンズの二人がギターを弾きながら歌うサービスもあり、会場は大いに盛り上がりましたが、二人のハーモニーは、科学と神学の一致と協調の可能性を象徴しているようにも思えました。

N・T・ライトとフランシス・コリンズ
2日目以降の全体講演やワークショップ、分科会も素晴らしかったです。今回の目玉の一つである、『アダムとゲノム(Adam and the Genome)』の出版記念講演のために出席していたスコット・マクナイト博士とも再会することができました。

スコット・マクナイト夫妻と
今回特に感謝だったのは、宇宙物理学者のデボラ・ハースマ会長をはじめ、バイオロゴスのリーダーたちと直接会ってお話をすることができたことでした。さらに、コリンズ博士を囲む昼食会にもお招きをいただき、博士と初めて言葉を交わすことができました。また、ブラジルや香港など、アメリカ国外からの参加者とも知り合うことができました。
カンファレンス会場ではいくつもの丸テーブルに分かれて座っていたのですが、同席になった何人もの科学者の方々とお話する機会がありました。今回のカンファレンスでは、クリスチャンと科学者がお互いをどう見ているかについて、興味深い社会学的な研究発表もなされましたが、どちらのグループも相手が自分たちを敵視していると感じているという調査結果があるそうです。つまりお互いに知り合うだけで壁が崩れていく部分もかなりあるということです。バイオロゴスはまさに二つの世界の素晴らしい交流の場となっていると感じました。
このカンファレンスをきっかけに、科学と聖書の関係について考えたことを次回から綴っていきたいと思います。
(続く)