待ち望むということ

今週からアドベント(待降節)に入り、教会暦では新しい年を迎えました。アドベントについてはこちらの過去記事でも書きましたが、二千年前のキリスト降誕のできごとを思い起こすとともに、キリストの再臨を待ち望むという意味があります。そしてまた、信仰者が1月1日から始まるこの世の暦とは異なる時間のサイクルに生きることは、この世の世界観とは異なる神の国の時空に生きることにほかなりません(これについてはこちらの過去記事を参照してください)。

個人的に、今年の待降節は文字通り「待つ」ということの意味を深く考えさせられています。

ルカ福音書の降誕物語では、イスラエルの救いを待ち望む忠実なユダヤ人が何人も登場しますが、興味深いことにそのほとんどが老人です。バプテスマのヨハネの両親であるザカリヤとエリサベツしかり(1章)、そしてシメオンとアンナしかりです(2章)。彼らは若いヨセフやマリヤとともに、メシアを待ち望む敬虔な神の民イスラエルを代表しているわけですが、ルカはこのイスラエルを、神の約束の実現を待ち望みつつ年老いた民族というイメージで描いているように思われます。つまり、福音書の冒頭部分でルカは、イスラエルに対する神の約束の実現が久しく遅れていた――あるいは少なくとも人間の目にはそのように見えた――ことを読者に伝えようとしているのかもしれません。そしてそれは、今まさに到来しようとしている新時代の幕開けに対する期待を高め、ドラマティックな効果をあげています。

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ルカ文書への招待(5)

   

Equipper Conference 2016に向けたルカ文書の入門コラムとその補足、第5回は福音の伝統の継承ということについて書きました。

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ルカが語る福音の物語⑤ 「世代を超えて受け継がれるメッセージ」

 今回も前回に引き続き、ルカ文書の序文(ルカ1章1-4節)を見てみましょう。

「私たちの間ですでに確信されている出来事については、初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった人々が、私たちに伝えたそのとおりを、多くの人が記事にまとめて書き上げようと、すでに試みておりますので、私も、すべてのことを初めから綿密に調べておりますから、あなたのために、順序を立てて書いて差し上げるのがよいと思います。尊敬するテオピロ殿。それによって、すでに教えを受けられた事がらが正確な事実であることを、よくわかっていただきたいと存じます。」(ルカ1章1-4節)

ここで「初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった人々が、私たちに伝えたそのとおりを」とあるように、著者のルカ自身は自分が書き記そうとしている多くのできごと、特にイエスの地上生涯の目撃証人ではありません。彼は綿密な調査に基づいて福音書を書いているわけですが、地上のイエスに出会ったことはありませんでした。つまり、ルカはイエスから直接教えを受けた第一世代のクリスチャンではなく、第二世代以降のクリスチャンなのです。 続きを読む

ルカ文書への招待(4)

  

Equipper Conference 2016に向けたルカ文書の入門コラムとその補足、第4回は、ルカ文書の序文についてです。

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ルカが語る福音の物語④ 「『みことば』の書」

どのような本であっても、序文というのは、その本を理解するために欠かせないものです。序文には、その本が何について、どのような目的で書かれたのかが記されています。今回は、ルカ文書(ルカの福音書と使徒の働き)の序文を見てみましょう。 続きを読む

ルカ文書への招待(3)

 

Equipper Conference 2016に向けたルカ文書の入門コラムとその補足、第3回は、ルカ文書の著者と読者についてです。

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ルカが語る福音の物語③ 「ルカ文書の著者と読者」

今回は、ルカ文書の著者と読者について考えて見たいと思います。キリスト教会では伝統的に、テオピロに宛てて書かれた二つの新約文書を書いたのは、ルカという人物であったと考えてきました。このルカはどのような人だったのでしょうか? 続きを読む

ルカ文書への招待(2)

前回に引き続き、Equipper Conference 2016に向けたルカ文書の入門コラムとその補足をお送りします。

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ルカが語る福音の物語② 「ルカ福音書と使徒の働きの並行関係」

前回のコラムでは、ルカの福音書と使徒の働きはルカが書いた一つの長い物語(フィクションという意味ではありません)の前編と後編である、と書きました。

ところで、使徒の働きがルカの福音書の続編ということは、ただ単にルカは福音書で描いたできごとの続きを書き綴っていった、という以上の意味があります。ルカの福音書と使徒の働きの間には、もっと密接な対応関係を見ることができるのです。 続きを読む